履歴は語る
今日のテーマ『履歴は語る』


 先日、ぼくの親友(♂)であるSと、男二人で仲良くカラオケボックスに行ったときの話を一つ。

 ボックスに入って、互いの近況報告などしつつ煙草を一服、入場時にフロントで注文したドリンクが来るのを待つぼくとS。
 ノリノリで熱唱しているときに、店員に「お飲み物お持ちしましたー」と室内に入って来られると興醒めなので、それまではマイクを握らない。
 いつぞやかの一人カラオケのときのような愚はもう犯すまい。ぼくにも学習能力はあるのである。

 混戦パ・リーグの優勝の行方や、オシム・ジャパンのメンバー選考(当時はまだ確定前だった)などの談義に花を咲かせているところに、無愛想な店員氏登場、二つのウーロン茶を“ドン”とテーブルに置き捨て、ドアをきちんと閉めずに去って行った、ことへの憤激はまぁこの際目をつぶるとして、
さてさてそれでは熱唱ターイム、というところで、ぼくらはふと気付いた。
 曲目が書かれた本がない。

 どうやら、この店に置いてあるのは、リモコンサイズのデータベース(?)だけである。

 ぼくはこのリモコンにどうも不慣れである。
 なぜって、まず、本がなければ、「ヤミカラ」が出来ない。適当なページをパッと開いて、そのページ内から曲を見つけるという楽しみがない。

 さらに、頭の中で漠然と歌手名とメロディーは浮かんでいるが、タイトルがはっきりとわからない曲を探すことが面倒になった。本ならば、ちょこっと「歌い出しフレーズ」を見られるのだが、リモコンでいちいち検索するのはカッタルイ。

 しかし、Sはこのリモコンの扱いに慣れているようで、それをあれこれと操作し、ぼくに年代別のヒット曲を検索できるシステムや、紅白歌合戦出場歌手特集などの機能を説明してくれた。

 そんな中、ぼくが注目したのは「履歴」である。

 リモコン本体に、最新50曲の履歴が残っていて、そこから歌いたい曲を入力し直すことも可能なのだ。
 ぼくらは、履歴を観察しながら『ぼくらの前に、この室内にはどんな客が来ていたのか』を推理するゲームを開始した。


 〈最新1件目〜20前後〉
 BoA、浜崎あゆみ、倖田来未が複数曲並び、ときおりELTや宇多田ヒカルが単発で混じっている。

 おそらく、これは女子中学生3人グループではないか。学校帰りに二時間ほど歌って行ったのではないか。
 ぼくは煙草をパイプに見立て、ホームズばりの推理をSに披露した。するとワトソン、じゃなくてSは、反論を展開した。

S「甘いな、ホームズ君。よく見てみたまえ。7曲目を」
ぼく「7曲目? ・・・モーニング娘。?」
S「はたして、今の中学生がモー娘。を歌うかな?」
ぼく「曲名は・・・ら、ラブマシーンか!」
S「これは20代半ばの女性グループだ。BoAとか歌って、いかにも最
 新曲にくわしい態でいるが、ついつい自分が学生の頃流行していたモー娘。を歌ってしまったんだ」

 ぼくはSの意見になるほどと頷きつつ、履歴に再び目を転じた。ある部分から、曲がガラッと変わっている。


〈20前後〜35前後〉
 小泉キョン×2、松田聖子、近藤マッチ、田原トシちゃん、などが並ぶ。これはもう間違いない。当時のアイドル全盛時代を知る、30代半ばのグループが数人でやって来たのだ。そして、そういうメンバーでカラオケに来るということは、これは同窓会の二次会に違いない。
 頭をかきむしりながら、ぼくが金田一耕介ばりの推理を提示すると、無能な警部、じゃなくて、Sはまたもや反論した。

S「愚かなり金田一。見てみろ、28曲目を」
ぼく「なにぃ? 『昴』(谷村新司)だとぉ」
S「そうだ。『昴』とは、団塊の世代のバイブルだ」
ぼく「しかし、やはりこれは同窓会の・・・」
S「そこまでは私も賛成だ。つまり、そこに混じってたんだよ」
ぼく「あっ、そうか!」
二人「かつての担任!」

 意見が一致したところで、ぼくらはさらに先へ進む。


〈35前後〜50前後〉
 北島“与作”三郎、森“お袋さんよ”進一、五木“よこはま”ヒロシ。演歌の大御所のオンパレードだ。これはもう推理の余地もない。どこぞの敬老会が、何かのパーティーの帰りに遊んだのだろう。
 ぼくが明智小五郎級にクールに決めていると、小林少年、じゃなくてSは即座にそれを否定した。

S「馬鹿め。41曲目を見ろ」
ぼく「ななな何だと? 『サライ』だってぇ?」
S「そうだ。この人は、思わず『サライ』を歌ってしまった」
ぼく「なぜ?」
S「厳しい都会に疲れ、ふと故郷を思い出したのさ」
ぼく「ということは、まさか!」
S「この客は一人だ。一人客だ。演歌歌手志望のな」

 
 だんだん阿呆らしくなって来たので、ぼくらは推理ごっこを中断し、せっかくだから何か歌おうか、ということにした。


 ぼく−井上陽水、中森明菜、布袋寅泰、キンキ、山口百恵。
 S−ダパンプ、ケツメイシ、グレイ、山本譲二、鈴木雅之、尾崎豊。


 ・・・さて、ぼくらの後にボックスに入った客は、この履歴を見て、ぼくらがどんな客だったと推理するだろうか?
【2006/09/23 01:48】 | 月の砂漠 | トラックバック(0) | コメント(0)
ダンディズム
今日のテーマ『ダンディズム』



 コーヒーを飲んでいた。
 とある街の、とある喫茶店でのことである。

 チェーン系列のカフェではない、昔ながらの小さな喫茶店。窓際の席には、夏の昼下がりの陽光が優しく差し込んでいる。
 ぼくは煙草をくゆらせながら、何気なく店内に目を凝らす。薄暗い照明、壁に掛けられた西洋画、ぼく好みの渋い喫茶店である。


 ぼくの席から少し離れたカウンターに、一人の初老の男性が座っていた。夏物の薄手のジャケットを身に纏った、チョイ不良風のオヤジである。
 チョイ不良氏は、店主の女性(あるいは店主の細君か)に、ぽつりぽつりと小声で話し掛けている。
 途切れ途切れに聞こえるその言葉を、聞くともなしに聞いてみる。

「素敵なお店ですね」

 口説いているようにも、純粋に店を誉めているようにも、どららとも受け取れる台詞。
 一つだけわかったのは、そのチョイ不良氏が、なかなかダンディーな魅力を醸し出している、ということである。
 ダンディー。ぼくはその雰囲気に弱い。憧れる。

 程なくして、チョイ不良氏は席を立ち、会計を済ませた。代金を支払うその仕種は、どこか遊び慣れている印象で、実にダンディーだった。

「じゃあ、また来るよ」

 そう言って、チョイ不良氏は片手を軽く上げ、店内を後にした。その仕種もまたダンディーで、うむ、まったくもってダンディ、
「あ、いかんいかん間違えた」
 去ったはずのチョイ不良氏の声。
 それに被さるように女店主の声。
「出口はこちらですけど」

 ぷぷぷ。
 ぼくは笑いをこらえた。どうやら、チョイ不良氏は出口を間違え、厨房に入ってしまったらしい。あんなにさんざん格好付けていたのに、もう台無しである。

 照れ笑いを浮かべながら、そそくさとチョイ不良氏が店内を(今度こそ)出た。ダンディーとは真逆の愚行である。
 ぼくはそれを見送ってから、対面の席に座っていた同行人にダンディーに声を掛けた。
「去り際は美しくありたいものだぜ」
 右頬を少し吊り上げて冷笑する同行人。
 むむ、こいつもなかなかダンディー。


 それからしばらくして、ぼくらも会計を済ませる。
「素敵なお店ですね」
 先程のチョイ不良氏を真似て、ぼくは女店主にそう告げてみた。
 ニッコリと笑う女店主。
 ぼくは、そんなダンディーな自分に自己満足して、とても良い気分で出口の扉を開けた。

 目の前に、洗面台と便器があった。

「・・・そこトイレ。出口はこっち」

 同行人の冷ややか声が背中に刺さる。
 ぼくは照れ笑いを浮かべつつ、そそくさと店内を(今度こそ)出た。

「去り際は美しくありたいものだぜ」
 同行人がぽつりとつぶやく。

 ダンディーへの道。いまだ険し。
【2006/09/09 02:33】 | 月の砂漠 | トラックバック(0) | コメント(0)
劇団「月の砂漠」 代表のつぶやき



プロフィール

Author:劇団 月の砂漠
劇団「月の砂漠」
http://tsukinosabaku.web.fc2.com/

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

ブログ内検索

RSSフィード

Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ