おにぎり
今日のテーマ「おにぎり」


 街には不思議が溢れている。
 例えば、道端。
 なぜかいろいろなものが落ちている。
 軍手。
 それも片一方だけ。
 どういう経緯でその軍手がここに存在しているのか。
 きっと、軍手の数だけドラマがあるのだろう。
 多分。


 自宅から最寄りの駅へ向かう道すがら。
 ふと脇道に目をやると、そこに、
 おにぎり。
 おにぎり一つ、落ちていた。
 コンビニのおにぎり。
 包装は解かれ、二つに割れている。
 かすかに見える具。
 焼きたらこ。

 職場へと急いでいたのだが、思わず立ち止まる。
 なぜ。
 誰かが落とした?
 もう一度見る。
 確かにそこにある。
 おにぎり。
 焼きたらこ。

 他日、きのこにこの件を話す。

きのこ「食べちゃだめだよ」
ぼく「食べないって」
きのこ「落ちてるものだからね」
ぼく「うん」
きのこ「食べちゃだめだよ」
ぼく「食べないってば」

 他日。
 同じ脇道。
 何気なく目をやるとそこには、
 おにぎり。
 コンビニのおにぎり。
 二つに割られたおにぎり。
 先日のものがそのまま?
 近付いてよく見る。
 さけわかめ。
 違う。
先日のとは違うおにぎり。
 さけわかめ。
 なぜここに?
 考える。考える。考える。
 考え疲れた。
 疲れるとおなかがすく。
 思わず手がおにぎりに伸び・・・

きのこ「食べちゃだめだよ」
ぼく「わおっ! どこから沸いた?」
きのこ「食べちゃだめだよ」
ぼく「食べないってば」

 また他日。
 同じ場所。
 何かが落ちている。
 目が釘付けになる。
 おにぎり。
 コンビニのではない。
 手作り。
 つまり、
 おむすび。
 具は見えない。
 そっと近付く。
 のりにうっすら着いた赤。
 うめぼし。
 どうしてここに。
 どうしておむすび。
 考える、考える、考え

きのこ「食べちゃ」
ぼく「食べないよっ! だからどこから沸いたっ!」
きのこ「とり」
ぼく「え?」

 目の前を一羽のハトが横切る。
 ハトは、おむすびをついばむ。
 小さなスズメがどこからともなく。
 うめぼしをつつく。

きのこ「とり」
ぼく「・・・えさ?」
きのこ「うん」
ぼく「誰かがわざと?」
きのこ「多分」

 一粒の米を分け合うとりたち。
 満腹になって、すずめがよたよた飛び去る。

きのこ「だから」
ぼく「ん?」
きのこ「お前は食べちゃだめだよ」
ぼく「食べないよっ!!」



 街の片隅。
 今日も何かがひっそりと落ちている。
【2007/09/26 01:51】 | 月の砂漠 | トラックバック(0) | コメント(0)
風船
今日のテーマ「風船」


 巷には、いろいろなミステリーが潜んでいるものである。
 深夜のネオン街を伏目で歩く初老の紳士と女子高生の連れ合いの関係性も、我が家の近くにあるラーメン屋が『みの麺た』という店名で新装オープンしたのも、総理大臣が突然辞職するのも、あれもこれもミステリーである。
 ミステリーとはすなわち、多種多様な人間が知らぬうちにすれ違い、偶然が必然を呼ぶドラマ。
 ぼくはそう思っている。


 先日、とある地下鉄が止まった。
 都心を走る路線、東京メトロの一線である。
 原因は、台風でも機器のトラブルでもない。
 
 線路内に「風船」が飛んでいるため。

 である。

 ぼくはこの話を聞いたとき、耳を疑った。
 風船?
 これはミステリーである。2つの点でミステリーである。
 一つ目の謎は、
「風船はどこから進入したか?」
 である。
 地下鉄ということは、当然地下を走っている。この路線は、東西線の浦安近辺のように、地上を通るわけではない、生粋の地下鉄である。ではなぜ?

 真っ先に考えたのは、その風船が“時空の狭間”から迷い込んだ、過去又は未来のものではないか、ということである。
 この路線は、拡張工事の際、R駅とN駅の間で太平洋戦争中の不発弾が掘り起こされ、工事が延期されたことがある。
 つまり、戦時中、激しい空爆にあった地域を走っているのである。
 その風船は、空爆によって生じた時空の狭間から、現代に生きる我らに何かを警告するために飛ばされたのではないか、風船を割ってみたら、中から悲痛なメッセージがしたためられた手紙が出て来るのではないか?
 未来・・・という可能性も捨て切れない。未来人が、現代に生きる我々に何らかの(以下前段と同文)

 あるいは、超能力。
 世界のどこかに居るユリゲラーも真っ青のエスパーが、どこかでふわふわ飛んでいた風船を、サイコキネシスで線路内に飛ばしたのかも知れない。
 きっと、その風船は蒼い空を自由に舞っていたに違いない。例えば、馬のいななきが穏やかな昼下がりを告げるモンゴルの大草原の。もちろん中には手紙が隠されている。
「モンゴル最高。By朝青龍」
 とか。

 あれこれ考えてみたが謎は解けない。
 そこでぼくは、このブログではお馴染みのI島氏に御意見を拝聴することにした。

ぼく「・・・というわけなんだ」
I島「ふぅん」
ぼく「どう思う?」
I島「何が?」
ぼく「風船はどこから来た?」
I島「ホーム」

・・・あ。

I島「子どもが、ホームで、持っていた風船を離した。それが、地上から線路内に流れ込んだ気流に乗って彷徨った」

 まことに明確な答えである。
 謎は解けた。

 だが、まだもう一つ謎はある。
 どうして、風船程度で電車がストップしたのか?
 である。

 風船など、気付かずに電車の車体が触れて割れても、大きな影響は出ないはずである。ちょっとは「パーン」と音がして、気の弱い運転手は「ピクッ」とするだろうだろうが、走行音に紛れるはずである。なのにどうして?

 もしかしたら、とぼくは考えた。
 あの風船の中には、胡椒が詰まっているのではないか?
 風船が割れた瞬間に大量の胡椒が飛び出し、かすかに開いた車窓から車内に進入し、乗客はみんなはくしょんへくしょんになり・・・パニックである。許されぬ愉快犯である。それでは電車を止めざるを得ない。

 いや、あるいは。ぼくはさらに推察する。
 そもそも、風船ということ自体、地下鉄会社の嘘なのではないか?
 風船ではなく、その正体は風船型の新種の虫か鳥で、しかしそれは地球上に存在し得ない生命体の可能性すらあり、電車を止めてその未知の生命体を捕獲する必要があったのではないか?
 だが、それならどこからその生命体は紛れ込んだ?
 まさか子どもがホームで離したわけではあるまい。
 とすればあれがこうなってつまりそうなっていわゆるひとつのどれがどうしてぽふっあああI島君〜〜〜

I島氏「今度は何だ?」
ぼく「つまり、かくかくしかじかで」
I島氏「(舌打ち)」
ぼく「どうして風船で電車を止めるの?」
I島氏「摩擦熱」

・・・へ、へぇ

I島「割れた風船のゴム片が車体と線路の間に挟まれた状態でそのまま走行を続けると、摩擦熱によってゴム片に引火する恐れがゼロとは言えない。それが車体裏側の電熱線のような敏感な個所に飛び火したら大事故になる」

 科学的である。理路整然とした解答である。細かいことはさっぱりわからんが、とにかく危ないのである。

ぼく「なるほど。やはりそうだったか。予想通りだ」
I島氏「うそつけ」
ぼく「ほ、ほんとだよ」
I島氏「あるいは」
ぼく「う、うん」
I島氏「運転手が気になっちゃったから」

・・・それだっ♪

I島氏「ははっ、というのはじょうだ」
ぼく「謎は全て解けた!」
I島氏「え? いや、今のはほん」
ぼく「ありがとっ!」

 謎が解けた瞬間とは何と気持ちの良いものか。
 やはり、ミステリーとは人間ドラマなのである。

 そんな爽快感を味わいながら街を歩く。ズボンの尻ポケットに入れた携帯電話が振動し、それはまるでI島氏が「どうしてお前はいつも勝手に電話を切るっ!」と怒っているような震え方だったが、それはぼくの考え過ぎというものだろう。謎はもう解けたのだ、今は余韻に浸って電話など知らんぷり。

 一服したくなったのでファミレスに入る。
 そこでぼくは、また違ったミステリーを幾つも目撃してしまうことになるのだが、それはまた別のお話である。
【2007/09/13 02:04】 | 月の砂漠 | トラックバック(0) | コメント(0)
予測変換2
今日のテーマ『予測変換2』


※前回までのあらすじ
 ぼくの所有する携帯電話(愛称・ヘンダーソン)は、最近の携帯電話のご多分に漏れず、予測変換機能が付いている。
 予測変換機能。それは携帯の“個性”
 そして、我がヘンダーソンは、
「アド」
 と入力すると、真っ先に、
「アドリブ」
「アドベンチャー」
 と出て来ちゃう恐い者知らずだった。



 さて、そのヘンダーソンの精神分析を続けてみよう。
 どんな言葉を打ち込んでやろうかと思っていたら、おあつらえ向きにメールが来た。劇団メンバーからの、打ち合わせ連絡である。
 そうだ、ヘンダーソンに掛かりっきりでうっかり忘れていたが、今週末は当劇団の公演本番だったのだ!

『人形草紙・秋 〜永遠の音色〜』
 9月7日(金)〜9日(日)
 チケット絶賛発売中!

 さて。
 メンバーからのメールは、公演で使用するBGMについてのものであった。ぼくはそれに返信する。
「音楽は大丈夫。安心して」
 である。
 まず、
「音楽」の「おん」だけを打ち込み予測変換。

「温泉」
「女」
「怨念」

 ふぅむ。初っ端からこれである。どうやらヘンダーソンは、サスペンス系2時間ドラマが好きなようだ。
 さらに変換候補を出すと・・・

「陰陽師」

 違った。好きなのは歴史系ファンタジーなようだ。


 ここで手間取っていてもアレなので、先を続ける。
「大丈夫」の「だいじ」まで打って、変換ボタンをプッシュ。

「大臣」
「大事件」
「大丈夫?」

 時事ネタだよ、タイムリーだよヘンダーソン!
 ちゃんと新聞とかもチェックしてるんだね?


 最後に、
「安心して」の「あんし」と打ってみたら。

「アンジェラ」
「アンジェリーナ」
「杏樹」

 み、みんな女性の名前ぢゃないかヘンダーソンっ!
 このぉ、お前も隅に置けないなぁ、

「暗礁に乗り上げて」
「案じています」

 男女関係はいろいろだよヘンダーソン・・・



 そうこうしていたら、メール一通返信するのに大層な時間が掛かってしまった。
 案の定、そのメンバーからは、
「返信遅いっ」
 と怒られる始末である。
 ぼくは無性にヘンダーソンに腹を立てた。お前がまともな変換をしないからいけないんだっ!
 もうこんな携帯捨ててしまおうか。もっと高性能で多機能なものにさっさと買い換えてしまいたい。そうだ、初めからそうすれば良かった。
 ぼくはヘンダーソン自身に、抗議の文面を書き込んでやることにした。クビを宣告してやる。

ぼく「こらっ!」

ヘンダーソン「こらえて下さい」

ぼく「使えねぇなぁ」

ヘンダーソン「仕えたいです」

ぼく「失格だ」

ヘンダーソン「しっかりするから」



 ・・・え?

 会話してる?

 奇妙な感覚にとらわれた。
 ぼくはなおもヘンダーソンに語り掛ける。

ぼく「おまえは」

ヘンダーソン「お任せ下さい」

ぼく「話せるの?」

ヘンダーソン「離さないで」

ぼく「おいっ」

ヘンダーソン「置いて行かないで」



 たまたまだ。しょせん機械だ。偶然だ。

 それでも、

 そうは思えないぼくがいた。
 偶然のような必然があることを、ぼくは知っていた。

 ヘンダーソン。
 やっぱりぼくには、お前が必要だ。

ぼく「ごめんよ」

ヘンダーソン「ご迷惑かけます」

ぼく「今後も」

ヘンダーソン「こんな私ですが」

ぼく「頼むぞ」

ヘンダーソン「楽しくやりましょう」



 ああ、ヘンダーソン。愛しの我がパートナー。
 ぼくは何だか無性に嬉しくなって、とびっきりの好意を込めて語りかけた。
 お前は・・・お前は・・・
 ヘンダーソンを撫でながら文字入力。

ぼく「なんちゅーいい奴だ!」

 と書こうとしてうっかり「なんち」で変換。

ヘンダーソン「なーんちゃって」



 ヘンダーーーソーーーンっっっ!!!
【2007/09/06 01:15】 | 月の砂漠 | トラックバック(0) | コメント(0)
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