今日のテーマ「風船」
巷には、いろいろなミステリーが潜んでいるものである。 深夜のネオン街を伏目で歩く初老の紳士と女子高生の連れ合いの関係性も、我が家の近くにあるラーメン屋が『みの麺た』という店名で新装オープンしたのも、総理大臣が突然辞職するのも、あれもこれもミステリーである。 ミステリーとはすなわち、多種多様な人間が知らぬうちにすれ違い、偶然が必然を呼ぶドラマ。 ぼくはそう思っている。
先日、とある地下鉄が止まった。 都心を走る路線、東京メトロの一線である。 原因は、台風でも機器のトラブルでもない。 線路内に「風船」が飛んでいるため。
である。
ぼくはこの話を聞いたとき、耳を疑った。 風船? これはミステリーである。2つの点でミステリーである。 一つ目の謎は、 「風船はどこから進入したか?」 である。 地下鉄ということは、当然地下を走っている。この路線は、東西線の浦安近辺のように、地上を通るわけではない、生粋の地下鉄である。ではなぜ?
真っ先に考えたのは、その風船が“時空の狭間”から迷い込んだ、過去又は未来のものではないか、ということである。 この路線は、拡張工事の際、R駅とN駅の間で太平洋戦争中の不発弾が掘り起こされ、工事が延期されたことがある。 つまり、戦時中、激しい空爆にあった地域を走っているのである。 その風船は、空爆によって生じた時空の狭間から、現代に生きる我らに何かを警告するために飛ばされたのではないか、風船を割ってみたら、中から悲痛なメッセージがしたためられた手紙が出て来るのではないか? 未来・・・という可能性も捨て切れない。未来人が、現代に生きる我々に何らかの(以下前段と同文)
あるいは、超能力。 世界のどこかに居るユリゲラーも真っ青のエスパーが、どこかでふわふわ飛んでいた風船を、サイコキネシスで線路内に飛ばしたのかも知れない。 きっと、その風船は蒼い空を自由に舞っていたに違いない。例えば、馬のいななきが穏やかな昼下がりを告げるモンゴルの大草原の。もちろん中には手紙が隠されている。 「モンゴル最高。By朝青龍」 とか。
あれこれ考えてみたが謎は解けない。 そこでぼくは、このブログではお馴染みのI島氏に御意見を拝聴することにした。
ぼく「・・・というわけなんだ」 I島「ふぅん」 ぼく「どう思う?」 I島「何が?」 ぼく「風船はどこから来た?」 I島「ホーム」
・・・あ。
I島「子どもが、ホームで、持っていた風船を離した。それが、地上から線路内に流れ込んだ気流に乗って彷徨った」
まことに明確な答えである。 謎は解けた。
だが、まだもう一つ謎はある。 どうして、風船程度で電車がストップしたのか? である。
風船など、気付かずに電車の車体が触れて割れても、大きな影響は出ないはずである。ちょっとは「パーン」と音がして、気の弱い運転手は「ピクッ」とするだろうだろうが、走行音に紛れるはずである。なのにどうして?
もしかしたら、とぼくは考えた。 あの風船の中には、胡椒が詰まっているのではないか? 風船が割れた瞬間に大量の胡椒が飛び出し、かすかに開いた車窓から車内に進入し、乗客はみんなはくしょんへくしょんになり・・・パニックである。許されぬ愉快犯である。それでは電車を止めざるを得ない。
いや、あるいは。ぼくはさらに推察する。 そもそも、風船ということ自体、地下鉄会社の嘘なのではないか? 風船ではなく、その正体は風船型の新種の虫か鳥で、しかしそれは地球上に存在し得ない生命体の可能性すらあり、電車を止めてその未知の生命体を捕獲する必要があったのではないか? だが、それならどこからその生命体は紛れ込んだ? まさか子どもがホームで離したわけではあるまい。 とすればあれがこうなってつまりそうなっていわゆるひとつのどれがどうしてぽふっあああI島君〜〜〜
I島氏「今度は何だ?」 ぼく「つまり、かくかくしかじかで」 I島氏「(舌打ち)」 ぼく「どうして風船で電車を止めるの?」 I島氏「摩擦熱」
・・・へ、へぇ
I島「割れた風船のゴム片が車体と線路の間に挟まれた状態でそのまま走行を続けると、摩擦熱によってゴム片に引火する恐れがゼロとは言えない。それが車体裏側の電熱線のような敏感な個所に飛び火したら大事故になる」
科学的である。理路整然とした解答である。細かいことはさっぱりわからんが、とにかく危ないのである。
ぼく「なるほど。やはりそうだったか。予想通りだ」 I島氏「うそつけ」 ぼく「ほ、ほんとだよ」 I島氏「あるいは」 ぼく「う、うん」 I島氏「運転手が気になっちゃったから」
・・・それだっ♪
I島氏「ははっ、というのはじょうだ」 ぼく「謎は全て解けた!」 I島氏「え? いや、今のはほん」 ぼく「ありがとっ!」
謎が解けた瞬間とは何と気持ちの良いものか。 やはり、ミステリーとは人間ドラマなのである。
そんな爽快感を味わいながら街を歩く。ズボンの尻ポケットに入れた携帯電話が振動し、それはまるでI島氏が「どうしてお前はいつも勝手に電話を切るっ!」と怒っているような震え方だったが、それはぼくの考え過ぎというものだろう。謎はもう解けたのだ、今は余韻に浸って電話など知らんぷり。
一服したくなったのでファミレスに入る。 そこでぼくは、また違ったミステリーを幾つも目撃してしまうことになるのだが、それはまた別のお話である。
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