今日のテーマ『シャ乱Q 〜ぼくが見た光景〜』
ぼくと多少なりとも近しい者ならみんな知っていることであるが、ぼくはシャ乱Qの大ファンである。 ファンと言うより、もうリスペクトしちゃっているのである。
なぜ、かくもシャ乱Qを愛しているのか。 それは、彼らが「ダサカッコイイ」からである。
ロックなのに、歌謡曲テイスト溢れる楽曲。 水商売チックなド派手衣装。 つんく♂のコミカルダンス。 はたけの変てこギター。 全盛期のときでも、常に売上チャートではミスチルやスピッツの後塵を拝していた微妙さ。
そのどれをとっても、シャ乱Qは誰もが憧れるようなスーパースターではない。だが、憎めない。どこか親身になって応援したくなってしまう、そんな弱さと強さのコントラスト。
ダサい+カッコイイ=ダサカッコイイ
その公式の具現者がシャ乱Qなのである。
いかに「ダサカッコイイ」男になるか、それはぼくの永遠のテーマでもある。どうすればダサカッコ良く見えるか、そればかり日々考えていると言っても過言ではない。 今のところ「ダサい」は完璧にマスターした。特に努力することもなく、身に付けた。 あとは、肝心要のもう一つの要素を獲得するだけである。道のりは果てなく遠い。
それはさておき。 先日、そのシャ乱Qのライブに行って来た。 TVの芸能ニュースでも少々取り上げられていたのでご存知の方もいるかも知れないが、実に6年ぶりの活動再開となった彼らの、言わば復活ライブである。
発売日にチケットを購入していたぼくは、どれほどこの日を待ち望んでいたことか。 あまりの期待に、うっかりチケットを2枚買ってしまったほどである。 特に誰かと行く約束があったわけではないが、何と言ったってシャ乱Qである。誰を誘っても喜んで飛び付いてくるに違いない。 そこで、ぼくは、日頃から世話になっている劇団員の“キノコ”に声を掛けた。 キノコには、以前、とあるバンドのライブに連れて行ってもらったことがあり、そのお礼にちょうど良い機会だと思ったのである。
ぼく「ライブ行かないか?」 キノコ「誰の?」 ぼく「ふふふ。聞いて驚くなよ」 キノコ「だから誰?」 ぼく「シャ乱Q!」 キノコ「ごめん。気が乗らねぇ」
唖然呆然とはこのことである。ああ、キノコ。何と愚かな奴であろうか。シャ乱Qの魅力を解さぬ不届者がこの世にいるとは驚愕である。ぼくは驚きや怒りを通り越して、哀れみすら覚えてしまった。
そこで、ぼくはそんな不埒者を見捨て、我が劇団の未来のエース、A氏を誘うことにした。 A氏は音楽通である。彼ならシャ乱Qの魅力を存分にわかっているだろう。ぼくは彼に電話した。
ぼく「ライブ行かないか?」 A氏「誰の?」 ぼく「ふふふ。聞いて驚くなよ」 A氏「だから誰?」 ぼく「シャ乱Q」 A氏「・・・」
一瞬の沈黙。途切れる会話。 ぼくには、その意味がわかっている。
A氏は感動しているのだ。
まさか、シャ乱Qのライブに誘われるなんて予想外だったのだろう。あまりの嬉しさに、絶句してしまったのだろう。こんなに幸せなことがあっていいのかと、神に感謝を捧げているのだろう。 ぼくは、携帯を握り絞めながら感涙にむせび泣いているであろうA氏の顔を想像して、思わずもらい泣きしてしまいそうになった。
ぼく「シャ乱Q、シャ乱Qだよ!」 A氏「ああ・・・行くよ。しか」
ぼくは電話を切った。駄目だ、これ以上はもう会話が出来ない。シャ乱Qに導かれた二人を思うと、涙がとめどなく溢れて来る。
その日のぼくが、素敵な夢を見ながら眠りに着いたことは、言うまでもない。
ライブ当日。 場所は横浜某所である。駅でA氏と合流したぼくは、足取りも軽く、会場までの道を歩いた。季節はすでに晩秋だが、この日はとても暖かかった。 ライブ会場側の野外喫煙スペースで一服しながら、シャ乱Qがいかに素晴らしいかをA氏に語る。A氏はその場で足踏みのような仕種をしていた。早く会場に入りたくてうずうずしているのだろう。ぼくはそんなA氏を微笑ましく思いながら、しかし、諭して聞かせる。
ぼく「そう焦るな。シャ乱Qは、逃げやしないぜ」 A氏「え? ああ、そうだな」
そして、ぼくらは会場に入る。 正直、ぼくは会場までの道すがら、そして場内の様子をあまり覚えていない。間もなく始まるドラマチックタイムへの期待で、周囲など見ている余裕は無かったのである。ただ、会場が超満員だったことだけは、確かに記憶している。 開演までの幾ばくかの時間、ぼくは胸の高鳴りを押さえながら、心地よい緊張感に身を浸しつつ、静かに始まりのときを待っていた。 ふと横のA氏を見る。 A氏もぼくと同じ気持ちのようだ。規則正しく呼吸しながら、瞑目している。厳かにそのときを待つA氏の姿に、ぼくは現代の侍を見た。
ふいに場内が暗転した。 すぐさま巻き起こる大歓声。 A氏はくわっと目を見開き、すっくと立ち上がった。A氏の気合はぼく以上かも知れない。ぼくは満足げにA氏にうなづいてみせた。照れたのだろう。A氏は目を逸らした。かわいい奴である。
オープニング曲が流れ、愛しのつんく♂が颯爽と登場し、ヒット曲「上京物語」になだれ込む。 後は、ただただ夢の中である。
「シングルベッド」 珠玉のバラード。ぼくも知らず知らずのうち、つんく♂と一緒に熱唱する。 A氏の横顔を覗き見ると、うっすらと、その両の瞳に涙が浮かんでいる。
「ラーメン大好き小池さんの歌」 つんく♂のダサカッコイイダンスが炸裂する。 思わずぼくも、それに合わせて踊ってしまいそうになったが、さすがにそれはちょっぴり恥ずかしいので自制する。
「いいわけ」 はたけの超絶ギターソロが、場内を歓喜の嵐に包み込む。A氏も、身を乗り出すようにして、信じられないといった表情で、はたけを見つめている。
ぼくが見た光景。 それは、憧れのシャ乱Qを通り越して、観客と演者が一体になることの素晴らしさ、純粋なエンターテイメントの美しさ、それそのものだった。 また一つ、ぼくはシャ乱Qに教えられた。
楽しい時間は過ぎるのが早い。感動のステージは、あっと言う間に終焉し、ぼくは割れんばかりに叩いた手の痛さに幸福を感じながら、A氏と共に会場を後にした。名残惜しい。必ずまた今度も見に来ようと決意しながら、シャ乱Qにしばしの別れを告げた。 入場前にも腰を落ち着けた喫煙コーナーで、ぼくはA氏と、いまだ冷めぬ余韻を楽しんだ。 A氏の頬は赤く染まり、蒸気している。
ぼく「楽しかったな」 A氏「ああ。とっても」
A氏の、その素直な一言がぼくをさらに喜ばせた。 ありがとうシャ乱Q。特につんく♂。 ぼくはきっと、あなたのようにダサカッコイイ男になって見せます。 そう誓った夜だった。 ぼくは、頬に暖かい風を感じていた。
 |