青春の1コマ 後編
今日のテーマ『青春の1コマ 後編』


 さて、前回に引き続き、尾崎豊論である。
「尾崎豊って誰じゃらほい?」
 という読者の方、ごめんなさい。

 しかしながら尾崎には、彼を詳しく知らない人々であっても、聞けば「ああ、あれか」と頷くような有名な歌詞もたくさんある。
 例えば『15の夜』のサビ、

【盗んだバイクで走り出す】

 名文である。美文である。
 何てったって七語調である。

 ぼくはこの歌詞にぞくぞくしたのを覚えている。
 基本的にくそ真面目な高校生だったぼくにとって、まずバイクに乗るなどということ、それ自体が禁断の果実であった。バイクに乗ることは不良の始まりだとすら思っていた。

 尾崎はバイクに乗っちゃうのである。しかも、まだ15なのにである。確実に無免許である。
 あまつさえ、親にねだって買ってもらったりせず、盗んじゃうのである。
 きっと、スピード違反もへっちゃらだろう。
 信号無視など朝飯前だろう。駐車違反も平然とやってのけるだろう。
 不良どころの騒ぎではない。

 有名な尾崎の歌詞はまだある。
 その最右翼が『卒業』のワンフレーズ、

【夜の校舎、窓ガラス壊して回った】

 この曲がリリースされた時期は、校内暴力が社会問題となっていた時代と重なる。
 尾崎自身にもそういう経験があったのであろうか。リアリティーのある暴力的な、しかし、どこか物憂げな風景が浮かんで来る。

 ぼくはこの歌詞にも興奮した。窓ガラスを壊すなど、ぼくには想像も付かない蛮行である。
 カッコイイ、俺も、人生で一度くらい、そんなヤンチャをしてみたい。
 そう思っちまったのである。

 だが、現実には、ぼくは尾崎ではなく平平凡凡たる真面目な高校生だった。

 窓ガラスにまつわる話と言えば、確か学校の大掃除の日のこと、班ごとに仕事場を分担しての作業の際、ぼくが所属していた班は、班長がジャンケンで負けたせいで、一番面倒な仕事と忌み嫌われていた窓拭き係になってしまい、しかも、ぼくはその班の中でさらにジャンケンに破れ、教室の外側から窓を拭くという役を押し付けられ、真冬の寒風が吹きすさぶ中、凍えながら雑巾を絞っていたくらいである。
 朝の校舎、窓ガラス拭いて回った。


 尾崎とぼくは、嫌になるほど違っていた。
 だからこそ、憧れたのである。



 そもそも、尾崎豊が昔も今も若者(主にティーン)から絶大な支持を得る最大の理由は何であろうか。
 それは、彼が若者たちの“代弁者”たり得たからであろう。

 前出の『卒業』のこんな一節、

【放課後、街ふらつき俺たちは風の中。孤独、瞳に浮かべ寂しく歩いた】

 あるいは『原色の孤独』では、

【孤独さ、ありきたりの矛盾に身を任せなよ】

 尾崎の多くの歌には“孤独”や“寂しさ”といったフレーズが登場する。
ティーン特有の、どこかナルシシズムを含んだ焦燥や苛立ちや虚無感を、尾崎は見事に語っている。
 それはおそらく、尾崎自身が抱える心の闇を率直に吐露していたものなのだろう。
 赤裸々。そんな言葉が思い浮かぶ。

 だが、決して尾崎は、絶望に彩られた“不の歌”を奏でていたわけではなかった。
 『17歳の地図』のサビを見てみると、

【人並みの中をかきわけ、壁伝いに歩けば、しがらみのこの街だから、強く生きなきゃと思うんだ】

 さらに『僕が僕であるために』では、

【僕が僕であるために勝ち続けなきゃならない。正しいものが何なのか、それがこの胸にわかるまで】

 あくまでも、尾崎は強く、たくましく、前向きに生きて行こうとしていた。希望を信じようとしていた。
 それがまた、若者の心を打ち震わせるのだろう。
 悲壮なまでの決意。見え隠れするヒロイズム。

 尾崎豊は永遠の高校生だった。
 それが、ぼくの結論である。



 最後に、尾崎にまつわる思い出話をもう一つ。

 ぼくが尾崎にハマっていた頃、S君の影響で、他のクラスメイトたちにも尾崎熱病が蔓延していた。
 そんな中、ぼくらは「尾崎部」を結成した。
 主たる活動内容は、昼休みに教室併設のテラスに出て、校庭でサッカーやら野球やらに興じる体育会系的な連中をぼんやり眺めながら、他人の迷惑にならない程度の声量で尾崎を延々と口ずさむという、それはそれは地味なものだった。

「かったりぃなぁ、午後の授業、サボろうぜ」
「いいねぇ、カラオケ行こうぜ」
「尾崎オンリーでいこうぜ」
 などとワルぶって会話していた。
 が、昼休み終了のチャイムが鳴ると、
「5限何だっけ」
「数学」
「やべぇ、予習してねぇ」
「俺、やってあるよ」
「ノート見せて見せて」
 慌てて席に着いた。
 そんな毎日だった。



 今では疎遠になってしまった「尾崎部」の面々を、たまに思い起こすことがある。
 ある者は普通の勤め人として、またある者は親の家業を継ぎ、さらにある者はうっかり劇団など運営しながら、それぞれの暮らしを営んでいる。
 きっと誰もが、時おり思い出したように、尾崎豊を聞き、口ずさんでいるのだと思う。

 あの頃、ぼくの傍らには尾崎豊が居た。
 恥ずかしくも懐かしい、青春の1ページである。


 今回前回と、少々真面目に書き過ぎた感もあるが、たまにはこんなものもお許しいただければ幸いである。

【2006/12/22 01:24】 | 月の砂漠 | トラックバック(0) | コメント(0)
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