内輪ネタ、再び
今日のテーマ『内輪ネタ、再び』


 以前、このブログ上にて、当劇団の公演作品「ワンワード」のサイドストーリーを掲載した。
 そのときの評判は、北越谷方面ではいまいちだったようだが、浅草並びに東十条方面ではまずまず良好であった。

 無名の脚本家が書いた一つの作品を、これほど愛してくれる読者が(ごくごく一部とは言え)いることは感激の至りである。

 そこで今日は、ぼくが劇団メンバーに、
「はーい、みんなへのお年玉だよぉ」
 と言ってお届けした小話を、転載することにする。

「これがお年玉とは片腹痛い。我々の笑顔が欲しければ諭吉の五、六人も引き連れて挨拶に来い」
 と、メンバー諸氏から新年早々の集中砲火を浴びたことなど、何もわざわざ口外する必要はないので黙っておこうと思う。

 ブログのヒマダネと思って、適当に読んでうっかり含み笑いなど浮かべていただければ満足である。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


ONE WORD サイドストーリー
「新春特別編」


 今日は元旦です。
 ワンワード奇術団団長のグラードは、いつものアトリエでお雑煮を食べながら、早くも今年の展望を練りに練っていました。

 昨年はいろいろありました。赤字に悩まされ続けたかと思えば、突然の大ブームに見舞われて、しかし、それもすぐに去って・・・
 波乱万丈の一年でした。
「やはり新作の研究が先決だな」
 一人つぶやきながら、危うく餅をのどに詰まらせそうになりながら、考えていました。

 ぴんぽーん。

 インターホンが鳴りました。
 出てみると、郵便屋さんでした。年賀状の配達です。
 セールスのダイレクトメールや、ファンからのありがたいメッセージ、取引先の舞台道具屋、それらに混じって、団員たちからのもありました。
 グラードは、それらに目を通しました。

 まずは、占い師ウラノフからの年賀状です。

『昨年はお世話になりました。例えばあのときの公演では・・・あるいはあのときは・・・』

 さすが、過去の出来事を全て水晶球に映してしまうウラノフです。
去年のあれやこれを完璧に覚えています。
 文面の最後は、

『今年の団長の運勢は・・・わかりません(笑)』

 そう結ばれていました。やっぱり、相変わらず未来は占えないようです。
「未来は自分で切り開けってことか」
 グラードはそう解釈し、何度も頷きました。

 次は、バルカルからの年賀状です。

『去年はまぁそれなりに良い年だったんじゃねぇの。今年もよろしくしたりされたり●ればいいぜ』

 文中の伏字は何かの暗号か?
 そう思ってグラードは目を近づけました。
 何てことはない、ただの煙草の焦げ跡でした。きっと灰をこぼしてしまったんですね。バルカルは今年も禁煙できそうにありません。

 あ、伝令屋からも来ていました。

『くっくっく。去年はお世話してあげました。また何かあればいつでもご相談下さい』

 文章なのに笑っていました。こんな年賀状は滅多に見られません。
 グラードはそれを破り捨てようかと思いましたが、でも何となく、取っておくことにしました。

 さらに、サラの年賀状も出て来ました。

『去年はうっかり世話になっちゃったけど、今年はそうはいかないから。あたしがたっぷり世話してやる、あんたなんか大っ嫌い』

 いかにもサラな文面ですが、グラードはふと違和感を抱き、宛名を確認してみました。
“バルカル”と敬称略で書かれてました。
 うっかりさんのサラは、バルカルに宛てた年賀状を間違ってグラードに出してしまったんですね。
 グラードは苦笑して、後でこっそりバルカルに届けておこうと思いました。

 トゥーラからの年賀状も、もちろんありました。

『去年はありがとう。今年もよろしく。これまで以上に前へ進んでね』

 トゥーラらしい、短く簡単だけど、深く温かい文章でした。
 グラードはしばしそれを眺めた後、他の年賀状とは違うところにしまいました。

 年賀状はこれで全部でした。
 ペトからのがありません。
「おかしいなぁ」
 グラードは不思議に思いました。ペトは、こういうことは楽しんでやりそうなのに。でも、ペトはきっと字が書けないのでしょう。グラードがそう思ったそのとき、

 ぴんぽーん。

 また誰かがやって来ました。
 出迎えてみると、ペトでした。
「おお、ペトか」
「明けましたです。おめでとです」
 ペトはちょこんと頭を下げました。
「新年早々、どうしたんだ?」
 グラードが聞くと、ペトは悲しそうな顔で、
「あい、これ」
 年賀状を手渡しました。
“だんちょさんへ”
 と書かれていました。
「うぅぅ、おいらちゃんと郵便屋さんに渡したです。でも帰ってきちゃったです」
 その年賀状には、住所が書かれていませんでした。なるほど、宛先不明で、差出人に戻されたんですね。
「まあ、でも、今こうやって受け取れたから」
 グラードはペトの頭を一撫でして、手渡されたばかりの年賀状に目を通しました。

『きょわんはありがと。ことJもよろしく。これまでいJ゛ょうにまええすすめです』

 ところどころ字は間違っていますが、心のこもった文章でした。
 あれ、でもどこかで見たことあるぞ?
 グラードは気付きました。トゥーラの文面とほとんど同じでした。
 きっとペトは、トゥーラさんに字を教わりながら、一生懸命に書いたんですね。だから、ついつい文面も同じになってしまったんですね。
 グラードは微笑ましい気持ちになって、ペトにお年玉をあげようと財布を取り出しました。
 そのときです。
 ノックも無しにドアがばぁんと開いて、誰かと思えばサラでした。
「ぺぇとぉ」
 サラはグラードには目もくれないで、一直線にペトに迫って行きます。
「あんたからの年賀状が届いてないんだけど?」
「んあ、あのぉ、いまここに」
「どういうことかしらペトちゃん、先輩への礼儀ってもんを、一から教え直してあげようか〜〜〜」
 言いながら、ペトのほっぺをうにょうにょ引っ張り始めました。
「ぶええ、ずびばぜん〜」
「待て、逃げるなペトーーー」
 二人の追いかけっこが始まりました。アトリエは大騒ぎです。去年と変わらない光景です。

 今年もワンワードはにぎやかになりそうです。
 グラードは溜息を吐きながら、すっかり冷めたお雑煮の汁を飲み干して、今年の先行きに思いを馳せていました。

 おしまい
【2007/01/18 01:13】 | 月の砂漠 | トラックバック(0) | コメント(0)
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