今日のテーマ「草津よいとこ一度はおいで 〜前編〜」
先日、草津温泉に行って来た。 気の置けない友人2人と一泊二日、遠足気分のミニ旅行。ちょいと昔の言葉で言うなら「安近短」である。
まずはJR上野駅に午前10時に集合、券売機で普通に切符を買い、高崎線に揺られて終点・高崎駅へと向かった。 さて、高崎と言えば、誰が何と言おうが、一番の名物は『だるま弁当』である。これを食さなければ高崎に来た価値が半減する、とぼくは勝手に思い込んでいる。 そこで、さっそく駅構内の弁当売り場で『だるま弁当』をチェックする。
・・・鶏がたくさん入っている。 恥ずかしいことに、実物を見るまで、ぼくは『だるま弁当』のメインデッシュが鶏肉であることを知らなかった。 誤解のないように言っておくと、ぼくは鶏肉が大好物だ。しかし、ここ最近は一連の『鳥インフルエンザ』にビビッて、まったく鶏類を口にしていなかった。 典型的なA型人間のぼくは『ダルマ弁当』を目の前にして、しばし悩んだ。しばしどころか、大いに悩んだ。 ぼく天使「せっかく高崎に来たのに、名物を食べなくてどうするのよ?」 ぼく悪魔「やめとけやめとけ、名物に上手いモノなしって言うぜ」 ぼく天使「鳥インフルエンザが何だってのよ、この臆病者!」 ぼく悪魔「怖いなー。鳥インフルエンザ怖いなー」 友人H「おい、早くしろよ。電車来ちゃうぞ」 ふと傍らの友人2人を見れば、共に手に『だるま弁当』を携えている。 ぼくは、参考までに、陳列棚に並ぶ他の弁当も見てみた。 ▽鶏そぼろ弁当 ▽鶏と玉子の親子丼弁当 ▽五目弁当(ジューシーな鶏唐揚げ付き)
悩んでいたのがアホらしくなった。ぼくは『ダルマ弁当』を売り子のお姉さんに注文し、すでに乗り換え列車のホームへと移動している友人たちを慌てて追い掛けた。 ローカル列車の吾妻線に乗り、長野原草津口駅へと向かう。車中で、先ほど購入した『だるま弁当』を食べる。 実にウマい! っていうか、マイウー。 やっぱり食べて良かった。伝染病何するものぞ、鶏食って死ねたら本望だ。 そんなことを思いながら、写メールを構えて、自分で自分を記念撮影。 長野原草津口駅に到着し、駅前の土産物屋兼食事処で一休みする。 草津に行くには、ここからバスに乗らなければならない。つまり、ここは中継点のような場所。もし、草津駅という列車駅が出来て、バスなしで直接行けるようになったら、間違いなくこの町は滅びる。 その食事処で注文したのは『まいたけ天ぷらソバ』 旅の楽しみの一つは、御当地の名物を食べることだ。 愛想の悪いおばちゃんが運んできた、名物ソバをすする。
・・・マズい・・・ もし、この日記の貴重な読者に、長野原草津口出身の方、あるいは実家がまいたけ業者の方が居るといけないので補足しておく。 『まいたけ天ぷらソバ』に決して責任はない。悪いのはこの店だ。その証拠に、友人が食べていた『おでん』も、おでんとは思えなかった。 そうこうしている間に、草津へ向かうバスがようやくやってきた。スキー用具一式を抱えた女性や、いかにもお忍び旅といった雰囲気の年の差カップルと共に、ぼくらはバスに乗り込んだ。
途中停車駅で、地元の小学生たちが大勢乗ってきた。草津方向に帰宅するということは、この子たちは温泉街関係者の子弟なのだろう。 ここまでの旅路に少し疲れていたぼくは、目を閉じ、聞くともなしに彼らの話を聞いていた。
「お前、大人になったら何になるの?」 「親父の旅館継ぐかな。お前は?」 「わかんねぇ。でも、ここからは出たい」 「ふぅん」 「お前の兄ちゃん、町役場に勤めてるんでしょ?」 「そうだよ。去年から」 「すげぇなぁ。憧れるよ」 「そうかな」 「そうだよ。夢だよ」
目を開けて、車窓の外、雪のちらつく山道を眺めた。長靴を履いた中学生が一人、バスと平行して歩いていた。 そんなこんなで、やっとのこと草津に到着したのは午後3時。予約してある旅館に直行するのも味気ないので、ぼくらは、草津の町をとりあえず散歩することになった。
バスターミナルの正面には、広々とした間欠泉。温泉街特有の硫黄の香りが、沸き立つ蒸気を際立たせる。 雪がかなり強くなってきた。でも、傘を差すことがなぜか野暮な真似のように思えた。 手袋越しにすくった雪はパウダースノー。 指と指の隙間から、はらはらと零れ落ちる白い宝石。 前方を進む友人を呼び止めて、彼が振り返ったところで雪を投げつけてやろうと思った。 ぼく「おーい、こっち向けよ」 友人T「なーんだい?」 その「だい?」と同時に、友人Tは、ぼくの顔面にパウダースノーを投げ付けて来た。 何てことはない。考えていることは同じだった。
さて、一通り草津の町を散策した後、宿泊予定のホテルに到着。 ・・・するはずだったのだが、雪降る町を行けど辿れど、全然ホテルに着く気配がない。中心地を離れ、スキー場がある方向からも遠ざかり、周囲の景色はどんどん殺風景になっていく。 友人H「おかしいなぁ、確かにこの辺りなんだが・・・」 ぼく「本当か? ぼくらの進む道は、本当に正しいのか?」 友人T「信じようよ。Hを信じようよ!」 やがて、目の前にコンビニが見えて来た。それは砂漠のオアシスそのものだった。逃げ水でないことを祈りながら、ぼくらはドアをくぐる。 温かい缶コーヒーと肉まんを買い、レジでお金を払うやいなや、お釣りをもらうより早くそれを胃に入れる。ようやく一息吐いたところで、店員さんに道を尋ねてみる。 ぼく 「あの、○○ホテルって、この辺ですよね?」 店員 「あ〜、真逆ですね」 ぼくらは草津のバスロータリーまで戻った。 戻る時間はそれほどかからなかった。猛スピードで逃げる友人Hを、追い掛けていたからだ。
「大人になんてなりたくない」
ふと、そんな言葉が脳裏をよぎった。 ぼくの幼い甘えた気持ちかも知れないし、誰かが言っていた台詞を思い出しただけかも知れない。 でも、ふと思った。 今は子どもでいいや。
そう思った。
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