夏休み
今日のテーマ「夏休み」


「夏休みになったら・・・」

 そんな約束を誰かとした思い出は、多くの人にあることだと思う。
「夏休みになったら、また旅行しようね」
 GW直後の両親との約束。
「夏休みになったら、みんなで再会しようね」
 桜のつぼむ卒業式で、別々の道を行くクラスメイトたちと交わした約束。
「夏休みになったら、遊びにいらっしゃい」
 離れて暮らす、祖父母との約束。

 果たせた約束、果たせなかった約束。
 様々あれど、夏休みには何となく、約束が似合う。

 ぼくもまた、今年の春だったろうか、小学校時代から親交の続く友人と、約束を交わしていた。

「夏休みになったら、映画観に行こうな」
「ああ、ちょうどやってるもんな」
「仮面ライダー」

 と言うわけで、観て来た。
 仮面ライダー電王を。
 倒置法。



 今のライダー面白いよ〜、という話を、どういうわけか最近、多くの人から耳にする。ここ何年かはライダーシリーズにほとんど注目していなかったが、ふむふむ、そんなに面白いと言うなら、実際に観に行ってみるか、と思った次第である。

 ライダーものと言えば、かつては勧善懲悪と相場が決まっていた。主人公ライダーは、作品によって、それぞれの悩みや葛藤を抱えていることもあるが、基本的に善と悪ははっきり区別されていたものである。少なくとも、ぼくの幼少時代の記憶の限りでは、ライダーはそうだった。
 ところが、ある時期から、ライダーはそうではなくなった。哲学的なテーマなども盛り込みつつ、ある意味では「大人の」作風に変わったのである。

 先日、小学六年生の男の子と話す機会があった。彼は、重松清だったか椎名誠だったかのエッセイを読んでいた。作家自身である父と、その息子との交流を描いた話である。
 男の子がふと、ぼくに尋ねて来た。
「これ、どういう意味?」
 本を覗き込むと、それは、父と子が“怪獣ごっこ”をしているシーンだった。作家は、
「遊んでいるとついつい本気になって来る。と言っても、自分はあくまでも怪獣、息子はヒーローである」
 と言った趣旨のことを書いていた。

 はて、これのどこがわからないのか?
 要するに、お父さんはいつも子どもに負けてあげるという、ただそれだけのことではないか。ぼくも自分の昔を振り返ってみれば、なるほど、父を何度も屈服させた記憶がある。
 が、ぼくがそう説明しても、男の子はきょとんとしている。現代っ子の読解力はここまで落ちているのかと、ぼくは暗澹たる気持ちになった。

「いいか、怪獣は負けるもんだ。正義は必ず勝つんだ」
「でも」
「でも?」
「ライダーとか、負けることあるよ」

 それでぼくはアッと思い出したのだ。そうだった。近頃のライダーやウルトラマンは、悪役に負けることもあるのだ。そればかりか、怪獣=悪、という構図自体に疑問を投げ掛けるような作品もある。
 ヒーローの時代に伴う変遷は、有名作家の息子を思う表現技法さえも通用させなくしてしまうのである。



 それはともかく、仮面ライダー電王である。
 周りを大勢の少年少女(+その保護者)に囲まれながら、ぼくと友人、二人の青年男子は、堂々と館内ほぼ中央のシートに陣取って、鑑賞した。

 感想を言うと、これがなかなか面白かった。
 いや、かなり面白かった。
 いわゆるネタバレになってしまうので詳しいストーリーには触れないが、ライダーかっこ良かった。
 ちょっぴりハードボイルドだった。臭い台詞がところどころに散りばめてあって、ぼく好みこの上なかった。
 特に、ライダーの決め台詞である、
「俺、参上!」
 にはシビれた。エゴイズム感に溢れるこの名乗り!
 実に興奮した。

 同時上映で、戦隊モノもやっていた。こちらは、ヒーローが世界征服を企む悪を倒すという、極めてわかりやすい設定とストーリーで、古き良き伝統美を感じさせたが、特筆すべきは、キャスティングであろう。悪役ゲストで出ていたのは、エロテロリストことインリンオブジョイトイ様である。
 お子様連れのお父様方へのサービスなのだろうか、作中でのインリン様は、不自然なまでに胸元を強調し、不必要なまでに太ももを露出し、挙句の果ては、グラビア誌でお馴染み、インリン様の代名詞とも言うべき「M字開脚」まで大胆にご披露なさっていた。
 実に興奮した。



 映画の帰路、友人とライダー論に花を咲かせながら、ぼんやりと、今度近しい人間と会ったとき、会うやいなや、
「俺、参上!」
 と言ったら相手はどう反応するか、考えてみた。
 
一人は、
「おおっ、それはライダーではないですかっ!」
 と、インド人もかくやとばかりにビックリしてくれることであろう。
 一人は、
「ふーん」
 何事もなく、右から左へ受け流すであろう。
 一人は、
「ぽふっ」
 有無を言わさずぼくを殴打するであろう。

 そんなことをシミュレーションしながら歩く、夏の夕暮。
 日中の気温が40度を越えた異常気象のせいか、あるいは、ライダーから与えられた興奮が収まっていないせいか、暑いことこの上なかった。
「秋、参上!」
 とは、まだまだいかないようである。

【2007/08/17 03:39】 | 月の砂漠 | トラックバック(0) | コメント(0)
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