初めてのテレビ
今日のテーマ「初めてのテレビ」


 先日、テレビ番組の収録に参加して来た。
 BS−i(TBS系列のBSチャンネル)の『BS王様のブランチ』という番組の1コーナーである。
 これまでにテレビ番組を「作る」立場の経験はあったが、自分が出演するのは初めての経験だった。
 今日はそんな話をしてみようと思う。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 業界関係者から出演の話をもらい、番組の担当ディレクターと電話で数回打ち合わせをした。
 番組内容はいたってシンプルで、
『90秒間、何でもいいからパフォーマンスしてくれ』
 ということだった。
 劇団のPRになることでもあり、断る理由は何もない。ぼくは出演を快諾した。

 さて、出るとなったからには、キャストを取り揃える必要がある。そこでさっそく、劇団員に連絡を取ることにした。
 別にゴールデンに冠番組を持つというような大袈裟な話ではないにせよ、テレビはテレビである。出たい出たいの大合唱となることは目に見えているが、まさか全員総出というわけにもいかない。その調整に手間がかかるかなと危惧しつつ、まずは団員Xに電話する。

ぼく「というわけで、テレビだ」
X「して、収録日は?」
ぼく「水曜の昼」
X「会社だ」

 数秒で会話が終了した。
 日々の仕事は大切である。やむをえない。
 気を取り直して、今度は団員Pと交渉する。

ぼく「テレビ出るぞー」
P「その日はバイトが」
ぼく「バイト? 何の?」
P「インド洋までマグロを獲りに」
ぼく「は?」
P「あ、もうすぐ出航なので。では」

 数秒で交渉は決裂した。
 マグロは大切である。ぼくも大好きだ。やむをえない。
 立て続けに2人に出演を断られたが、むしろ交通整理がスムーズに出来たと思うことにする。
 今度は団員Qである。

団員Q「テレビ・・・無理だな」
ぼく「なぜだ?」
団員Q「面が割れる」
ぼく「・・・困るのか?」
団員Q「ああ。稼業がしづらくなる」
ぼく「稼業とは?」
団員Q「説明しなきゃならんか?」
ぼく「いや、結構だ」

 Qはくわえていたマルボロを灰皿に押し付け、カミュの残りを一息に飲み干した。触れられたくない秘密の一つや二つ、誰にでもあるのものだ。詮索するのは野暮だろう。俺は目の端でQの苦みばしった表情をとらえ、この街に巣食う闇は根深い、そんなことを思っていた。

 ・・・などと、わざわざ一人称を「俺」に変えて、不出来なハードボイルドを気取っている場合ではない。
 ぼくは冷静さを取り戻し、取り戻したら、収録日はもうすぐだという事実を思い出し大層慌てた。
 ぼくはわたわたと他の団員に連絡を飛ばす。

団員L「今、大統領選の準備に手一杯で」
ぼく「どこの国?」

団員#「一緒に赤福でも食べます?」
ぼく「遠慮しとく」

団員%「日ハム負けたね」
ぼく「うるさいっ、そこに触れるなっ!」

 最後の一人への電話を切った。
 何ということか。
 出演者が誰もいないではないか。
 まったく何ということだろう。せっかく代表であるぼくが、団員のためを思い、テレビ出演の話を取って来たというのに、手ひどい仕打ちである。この劇団にテレビ担当能力があるとは思えない。そうだ、いっそ代表辞任を申し出よう。そうすればみんな慌てて、ぼくに翻意を求めるはずだから、ぼくはそれを受けて「ありがとう」と涙ぐんで、恥をさらしますと言えば、我らは一致結束するに違いな電話が鳴った。
 担当ディレクターだった。

ぼく「は、はい」
担当D「何人で収録に参加されますか?」
ぼく「え、えーっと」

 ゼロですとは言えない。仕方ない断ろう。
 だいたい、テレビ出演にはデメリットが多過ぎる。地上波でないとは言え、チューナーがあれば全国どこでも見られるBSなのである。
 番組が放送されれば出演者は一躍人気者となり、街頭で見知らぬ人々にサインを求められきゃあきゃあ言われ、財布は莫大なギャランティーでほっくほく、番組を見たジョージ・ルーカス監督あたりが「次のスターウォーズにぜひ」と家まで押しかけて来て・・・

担当D「で、どなたが出演されるんです」
ぼく「私が一人で出演します」

 ぼくはぼくとの交渉を締結した。

☆     ☆     ☆     ☆    ☆

 収録当日。
 ぼくは指定された都内某スタジオに向かうため、タクシーに乗り込んでいた。
 スターを気取ったわけではない。当日朝、うっかり寝過ごして時間がなかったのである。前夜、サインの書き方を練習していたらすっかり空が白んでいた。
 車中でぼんやり考える。一体、どんな豪華なスタジオがぼくを待っているのだろう。広々としたフロアに、多くのスタッフが走り回る光景が浮かぶ。ネットが隆盛する現代とは言え、メディアの王様はやはりテレビであろう。

タクシー運転手「着きましたよ」
ぼく「御苦労」
タクシー運転手「○○円です」
ぼく「うむ」
タクシー運転手「あ、お客さん」
ぼく「構わん。釣りは取っておきたまえ」
タクシー運転手「百円足りません」

 排ガスを撒き散らして去って行くタクシーを見送りながら、周囲を見渡す。さて、豪華なスタジオは・・・
 見当たらない。
 複数の雑居ビルやコンビニが並ぶだけの通りである。
さてはあの運転手、間違えやがったか!
 ぼくが憤怒にかられ、猛然とタクシーを追い駆けようとしたそのとき、目の隅に一棟のビルのテナント表示版が入った。
 ぼくが目指すスタジオの名が記されていた。
 ごく普通のマンションの一室である。

「・・・そ、そうさ。スタジオなんてのは、テレビだと立派に見えるけど案外こじんまりとしているもんさ」

 ぼくは側に誰もいないのにそうつぶやき、マンション内にいそいそと足を踏み入れた。

 スタジオでは、すでに複数のスタッフや出演者がおり、慌しく動いていた。
 広くはないマンションの一室に、カメラや集音マイクやモニターが取り揃えられ、一層狭さを感じさせる。それでも、それが決して不快でないのは、現場独特の熱気があるからだろう。ADの一人が、笑顔で軽口を叩いて、番組MCの女性タレントを和ませていた。
 ディレクターと簡単に挨拶を済ませ、ぼくもスタンバイに取り掛かることにした。
 普段は髪型などあまり気にしないが、何と言ってもテレビである。粗相のないように繕わなければなるまい。

ぼく「あの」
AD「はーい、どうしましたー」
ぼく「ヘアメイクさんはどこに?」
AD「は?」

 いないらしい。それはそうだ。ぼくは洗面所に入り、水と手櫛で髪型をセットする。
 ドーラン・・・
 ふいにそんなワードが浮かんだ。そうだドーランだ。テレビに出るからには、顔の小じわや染みを隠さねば。そのためにもドーランは必須アイテムである。

ぼく「あの」
AD「はーい、どうしましたー」
ぼく「メーキャップアーテストはどこに?」
AD「は?」

 いないらしい。当たり前である。賢いぼくは、すでに現実に気付き始めていた。ドーランなど携帯していないので、とりあえず油取り紙で顔を拭く。おどろくほど油ぎとぎとで笑った。笑っている場合ではない。間もなく本番である。
 小走りでフロアに戻ると、MCタレントに声を掛けられた。ぼくより数歳若い、きれいな女性である。

美女「今日はお一人ですか?」
ぼく「は、はい」
美女「えー、寂しー、かわいそー」

 美女は切ない顔をした。こんなうら若き美女に悲しい思いをさせてしまうとは、まったくぼくも罪な男である。明日からはミスター女泣かせと名乗ることにしよう。

 そんなこんなで収録が始まり、そしてつつがなく終了した。
 ディレクターと少し会話を交わし、場はお開きとなる。
 さて、ぼくにはまだ大仕事が残っている。
 ギャラの交渉である。
 あまりにも金額が多ければ、節税対策のアドバイスをもらわなければならない。想像を絶するほどの金額であれば、寄付する先の慈善団体の情報を聞かねば。

番組D「お疲れ様でした」
ぼく「あの、ギャ、ギャラなんですが」
番組D「また機会あれば、ぜひご出演下さい」
ぼく「スイス銀行赤羽支店に振り込んでおいてくだ」
番組D「ではまた」

 現実は厳しい。
 まぁ、だから面白いとも言える。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 こうして、ぼくのテレビ初出演は無事終了した。
 普段は表舞台に出ない人間が、調子に乗ってしゃしゃり出てしまった番組なので、ぜひ見ないで頂きたい。
 が、見ないでと堂々と言うとディレクターに怒られるので、こんなぼくが恥をさらしている姿をせせら笑ってやろうという意地悪な方、ぜひご覧下さい。

11月10日(土)昼
BS−i『BS王様のブランチ』
 である。
 ぼくの出演シーンが全面カットされていても、抗議苦情は一切受け付けないのであしからず。

【2007/11/08 01:01】 | 月の砂漠 | トラックバック(0) | コメント(3)
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コメント
見ました
【2007/11/10 11:59】 URL | 名前がありません。 #-[ 編集]
見ました!!!
早速HP見てみようと思い、ここにたどりつきました。
正直、変なヒトと思いました・・・。
でもこのブログで大笑いしました。ぜひTV見た方に読んでほしいですね。
がんばってください!
【2007/11/10 12:05】 URL | 名前がありません。 #-[ 編集]
「BSブランチ」を見てこのブログに飛んできました。
普段は表には出ずに脚本を主に書かれているということで、サイトを拝見した限り増田さんという方でしょうか?

「Bブラ」は先週3日からメンバーが変わったばかりなのでまた告知出来る機会がありましたらまた出演してください。
【2007/11/11 05:16】 URL | Cream Powder #Icb24Y6U[ 編集]
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