今日のテーマ「眼鏡を尋ねて三千里 後編」
(前回までのあらすじ) 眼鏡が壊れた。っていうか折れた。困った。 自力で直そうとしたらもっと壊れた。参った。
何と言うことだ。二話連続でお送りして来たのに、たった二行で語れる内容だったとは!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
私が入ったその眼鏡屋は、ブランドショップだった。ちょいとお洒落な自社ブランドの眼鏡が、陳列ケースに優雅に並べられている。眼鏡屋と言うより、アクセサリーショップと言った感じだった。
「いらっしゃいませー」
プチセレブな店内の雰囲気に似合わぬ威勢の良い声がして、若い店員氏が姿を表わした。 私は壊れた眼鏡をおずおずと差し出し、修理は可能かどうかを尋ねた。回答は、すでに予期していたことだったが、ノー。自社製品以外の取り扱いは出来ないと言う。 そうですよねぇ、お邪魔しました。お洒落な雰囲気がどうにも苦手な私は、なぜか卑屈な愛想笑いを浮かべ、くそっ、とんだ時間の無駄だった、内心で悪態をつきながら店内を辞去しようとした。 そのとき。
「あれ・・・もしかして、○○さん?」
店内奥から、ふいに私の本名を呼ぶ声がした。 驚き声の方を見やる。 「僕ですよ、Tです。クラスメイトだったT」
T・・・T・・・ 記憶の歯車がカチリと合う。私の目の前の男性は、確かにTだった。学生時代より太った印象だったが、長身、髪型、バリトンボイス。紛れもなく、学生時代の同級生、Tだった。
「T君、いやぁ、久しぶりっ」 「いやぁほんとに、数年ぶりだね」 「T君は、このお店で働いてるの?」 「そう。店長なんだ」 そう言ってTは微笑んだ。学生時代から、決して派手ではなかったが、実直な、人当たりの良い男だった。店長という肩書きが、何だかTにはぴったりだった。
「○○君も、この近くでお勤め?」 「そうなんだよ。本当に奇遇だね」 店内には私以外の客はいなかった。店員氏も、我々の事情を察したようで、店内奥に退いた。しばらく、私とTは互いの近況報告に時間を費やした。
「ところで、今日はウチの店に何か?」 「ああ、実は」 私は、Tに壊れた眼鏡を見せた。先程は修理不可と言われてしまったが、今の状況なら何とかなるかも知れない。 うーん、ほんとは自社製品しか扱わないんだが、特別サービスだぜ。苦笑いを浮かべながら注文に応じてくれるTの姿がありありと想像出来た。
「すまないな。ウチは自社製品しか扱わないんだ」 Tは満面の笑顔で私を拒絶した。 苦笑いを浮かべたのは私の方だった。 Tは、立派に店長だった。
ふいに、学生時代のTとの思い出が脳裏に蘇った。あれは学食だったか、授業が終わった教室だったか、他の数人のクラスメイトと共に、Tの淡く切なく儚い恋物語を聞いたことがあった。細かい部分は忘れた。ただ、Tの、不器用なまでの実直さに好感を持ったことだけは覚えている。 数年ぶりに会ったTは、やっぱりTだった。
Tと名刺交換をし、私は見送られながら店を後にした。 心がほんのり温かい。ああ、今日は何だか良い日だ。
・・・
・・・
・・・
大切なことを思い出した。 私の眼鏡は壊れたままだ。
私は懐かしさに浸る感情を一旦封印し、ブランドショップではない普通の眼鏡チェーン店を探し、町をさまよった。 と、程なくして、一軒の店舗を見つけた。 それは、桃太郎の看板の店や、一律な値段設定でお馴染みな店ほど有名ではないが、名前を聞いたことのあるチェーン店の一つだった。渡りに船。私は店内に入った。
そこで私は、思わぬ幸運を感じるのだが、それはまた、次回のお話である。
【次回予告】 眼鏡屋で私を待っていたのは、一人の女占い師だった。ほんの気紛れで手相を見せた私に対し、占い師は厳かに告げた。 「あなたは導かれし勇者だ」 私は運命に翻弄されるがごとく、その占い師、彼女の姉である踊り子、さらにはおてんば姫とか王宮戦士とかメタボな商人とかを仲間にしながら、魔王を倒す旅に出た。 次回、感動の最終回『導かれし者たち』 こうご期待!
※最終回の内容は筆者の都合により変わることが御座います。あらかじめ御了承下さい。
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